連載
#15 あなたの知らないトイレ
中年以外も…若い世代にはびこる「痔」 二足歩行の限り逃れられぬ病
トイレが近くて困っているという話を書いた27歳の記者。記事を世に出すと、頻尿だけではなく「痔」に悩まされている若い世代が意外と多いことが、反響から分かりました。軽い感じでも話せる頻尿と違い、オープンに話すのはなかなか難しいのが痔。おしりの専門家に聞くと、人類が二本足で立った時点で痔からは逃れられない宿命だといいます。現代のおしり事情に迫りました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
訪ねたのは東京都八王子市の「おなかクリニック」(村井隆三院長)。その中にある「おしりセンター」の部長で医師の羽田(はだ)丈紀さんに話を聞きました。このクリニックを訪れるのは、おなかとおしりの悩みを持つ患者が半々だといいます。
気軽に受診できる環境を整える「おしり解放運動」を繰り広げている羽田さんによると、おしりの代表的な病気である痔を持っている人はなんと「全人類の3分の2」。そのうち3分の1に症状が出ると言われています。約20%でしょうか。かなり潜んでいます。
主な症状を見ていきます。世間的に知られている名前を太字、その病名を下に書いています。
この中のイボ痔は、人間が二足歩行のため、避けられない運命にあります。立つことで重力の影響を受け、おしりが心臓よりも下がり、うっ血するからです。ちなみに、四足歩行の動物にこのタイプの痔は存在しないと言われています。なぜかバクだけは痔になるとも言われていますが…。我々も四足歩行に戻るべきなのでしょうか。
このクリニックの場合、痔の手術を受ける平均年齢は45~50歳と、イメージ通りに中年の世代が多いようです。中高生で来る患者もいるにはいますが、羽田さんは「それは氷山の一角」と話します。「おしりはどうしても病院に行くのが後回しにされちゃうエリア」。若い時から痛くても受診をためらい、慣れちゃって慢性化する人も。多少血が出ても、多少痛くても、日常に追われて受診が遅れてしまう気持ちも分かります。
そもそも、どこに受診に行けば良いか分からないこともあります。大きな総合病院では体制が整っていないことがあるため、近所の肛門科に行くことになります。
頻尿の記事を出した時に、熱い思いをメールでくれた大阪市旭区の会社員男性(30)は、若い時から頻尿だけでなく痔にも悩まされてきました。「長い付き合いになります。もう20年以上でしょうか」。単純計算でも10歳前に痔とは出会っていたようです。
小さい頃はよく下痢になっていたため、紙で拭く頻度も高かったので痔になったのでは、と自己分析する男性。ただ、最初は「下痢になると痛いのは当たり前」だと思っていたといいます。中学生の時にテレビでやっていた痔の特集を見て、「これだ」と初めて気づきました。
親に打ち明け、病院に行ってみたところ、痔でした。薬で治りましたが、下痢になってまた発症しての繰り返し。傷が小さいため、恒常的に痛みを感じることはないのが救いでした。「痛いのは出すとき。頭では痛くなると分かっていますが、でも出したい。出してしまえば何でもないのですが、出すときが瞬間的にめちゃくちゃ痛い」
それでも病院は行きづらいです。特に内科などが併設であるところだと、「今日はどういうご用件で?」に「おしりの方で…」というのが恥ずかしいです。さらに、自分のひざを持って仰向けに寝て、医師と看護師に凝視されるのが恥ずかしさを倍増させます。
羽田さんの勤務する、おしりセンターは「おしり」とひらがなで書く可愛らしいネーミングにすることで、気軽に行けるようにしていると言いますが、その効果ははたして。
羽田さんの感覚では、女性は男性の医師に診られるのが嫌だというよりも、「待合室に男性がいるのがちょっと…」という感じ。そのため、以前はある曜日を女性専用の日としていたこともありました。
「座っていると痔になる」とのイメージが世の中では強いですが、「それが事実かどうかは分かりません」と羽田さん。例えば、外来では医師のほとんどが座っていますが、痔が多いわけではありません。現に、羽田さんも円座クッションを使っておらず、痔でもありません。円座の効果を訴える人も、逆効果を訴える人も。いまだ結論は出ません。
他にも、痔の手術というと切るイメージが強いですが、今では注射で治す方法もあります。日帰りでの治療も可能となり、手術のハードルが少し下がっています。ジオン療法という名前で、2005年に日本で保険適用されました。ただし、これは内痔核のみに使える注射です。「これは画期的。ワッと広がりました」と羽田さんもうれしそうに話します。
ならないためのポイントも聞きました。イボ痔について羽田さんは「一番重要なのは快便」と強調します。いきむと、おしりもうっ血するからです。さらにトイレの長居もダメだそう。便座に座っていると、おしりはトイレをする態勢に勝手になってしまいます。「5分以内にしましょう」と羽田さん。トイレで本を読んでしまう記者も気をつけないといけません。
顔も洗い過ぎると肌荒れするように、おしりも洗い過ぎは良くないです。程良い洗浄で、さらに、こするのでなく乾かせる時は乾かすことが大事。羽田さんは「本当はトイレの度に入浴できればベストなのですが、そうもいかないですよね…」と笑います。温水洗浄便座を使う場合、温度に注意して水圧は弱めにすることで対策できます。不規則な食事時間を改めるなど、世間で良く言われることも心がけが必要です。
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